僕のお嬢
どんな答えが返ったら満足だったんだろ。自分でも分かってなかった。ああでもね、言いたかったのはね。

「嫌ね、お嬢。根っからの善人は極道者になんかならないわ。性に合ってるだけよ、買い被らないでちょうだい」

溜息雑じりに都筑は薄笑いを浮かべる。

「稼ぎがいい仕事を選んでるのも私の勝手。こう見えて、けっこう悪運強いの。お嬢を置いて死んだりしないから安心しなさい」

伸びてきた手があたしの頭の上に乗った。外見は華奢なクセに掌の感触はやっぱり男で。佐瀬を思い出す。

「もし間違って死んでも、後のことは姐さんに頼んであるわ。大丈夫」

真面目な顔で分かった風で、大丈夫ってなにが? 

あたしを起こしにくる都筑がいない。
お弁当作ってくれる都筑がいない。
会社の愚痴を聞いてくれる都筑がいない。

綺麗にお化粧乗せた顔で笑うあんたがいない。
オネエ言葉でお説教するあんたがいない。
どこ行くのも一緒のあんたがいない。

そんなのは世界の終わり。何もないのと同じ。

「・・・もし間違って死んだら。新太に頼んで、あたしを三途の川に放り込んでもらうからね」

本気で言った。

「都筑がいないこの世に未練なんて、これっぽちもないよ」
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