僕のお嬢
翌朝早く。黒スーツの身ひとつで出かけてく都筑を玄関先で見送る。

「おかずはタッパーに入れて冷凍庫にも入ってるわ。温めてお弁当に詰めるだけよ?簡単でしょう」

「ハイハイ」

「洗濯物はバスケットに出しておきなさい。お嬢が会社に行ってる間に新太がやっておくから」

「ハーイ」

「夜ご飯食べたらすぐお風呂に入るのよ?寝たら死ぬわよ?」

「シナナイ、シナナイ」

「心配しかないけど行ってくるわね」

あからさまな溜息吐いた男がドアハンドルに手を伸ばしたのを、呼び止める。

勝手に体が動いた。振り向いた都筑の上着の両襟をつかんで引き寄せると、綺麗に色づいた唇めがけ、自分の唇を力任せに押し当て。

衝動的。なんだろ。無事に帰ってくるように、のおまじない代わり?

そのまま部屋に逃げ込もうとしたのに出来なかった。取られた手首。勢いよく振り向かされる。あ。・・・と思ったら口が塞がってた。腰に腕が回され抵抗できない、されるがまま。

しなやかな舌に絡みつかれ、征服される。引いたかと思えば優しく啄まれ、舐めとられ、何かが圧しあがってきそうなほど、溶かされてく。やっと息継ぎが与えられた時には、膝から崩れそうになってた。
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