都市夢ーとしむー
その３/女が消えた…


その瞬間、黒い影は確かに横切った。
しかし、車も歩行者も気付く者は皆無だった。
黒い影は落下物をキャッチし、数秒後には数キロ離れた暗がりで、その落下物である”契約者”の体を”洗浄”していた…。


...


これより、契約者こと原アユムはこの世界から消えることの代償をその黒い影に捧げる…。
黒い影、それは黒いスーツを身にまとった若い女。
通称、リカ…。


...


素っ裸のアユムが路地を曲がると、そこには白いバスが停車していた。
その場所は深い霧のたちこめるバス停…。
バスの入り口のドアは開いているようだ。
そしてその前部ドア脇には、背の高い黒いスーツを纏ったリカが立っていた…。


...


アユムはバスの入り口に向かって、ゆっくりと歩いて行く。
リカと目線があった…。
リカは今回の契約者であるアユムの姿を捕えると、その瞳からフラッシュを焚いたような怪しい閃光を放った。



...


次の瞬間、黒いスーツ姿のリカは、アユムの正面に”移動”していた。

「もたもたしないで、さっさと歩きなさいよ！」

リカはそう言うと、髪の毛をワシ掴みにしてアユムの体を引きずるようにバスの入り口まで連行していく…。


...


バン！

リカは手にしたショートバッグで、バスの行き先を表示したウインドウを叩いた。
すると、行先は”極楽から”獄落”に変わった…。

”乗りなさい！”

リカは朦朧としてバスの入り口で立ちすくんでいたアユムの背中を、思いっきり押してバスの中へと押し込んだ…。
やがてバスは出発し、車内では契約履行の儀式が始まった…。





< 13 / 115 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop