都市夢ーとしむー
その4/現れた黒い影



「こんにちわ…」

黒いスーツの女ことリカは、ジュリにまずはあいさつした。

「あなた、誰よ!誰もいなかったはずなのに、いつの間にここ入ったの?」

「私はいつもいつの間にかいるのよ。気にしないでいいわ。長い付合いになるんだから」

「…どういう意味?」

リカとはほんの1M程の間隔で向き合っていたが、こう言葉を交わして、ジュリには不思議なことだが、遠く離れている感覚が拭えなかった。
なぜか…。


...


「あなたのその手、私との契りの証なのね。根詰めた話はおいおいする。いい…、当面、流れに任せるのよ。昨日のことは私がいじったから、そのことだけは踏まえておきなさい」

「ちょっと、待って!あなたは…」

ここでリカはすっと消えた。
そして、入れ替わるかのように女子職員が二人、笑い声を交えた会話をしながら女子トイレに入ってきた。

”今のは幻?幻聴…?”

この時のジュリは、日常と非日常の交差をおぼろげながらも実感として捉えていた。
そして、気が付くと手の痛みはほとんど治まっていた…。

...


ジュリは”日常”を取り返したトイレを出て、あの女のことを考えた。
無論、分からないことだらけだ。
だが、ひとつだけはっきりしていることがある…。

”アユムが消えたのは、あの女がかかわっている…”

少なくとも、このことだけは確信に至っていたのだ。
そして午後に入ると、ジュリは常務の江副に呼び出された…。





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