都市夢ーとしむー
加えられた手
その1/呼び出し



”さっそくだ…。用件は昨日のことだろう…”

ジュリは常務の江副には、以前より特別、目をかけてもらっていた。
江副は影山ジュリの堪能な英語力と優れた社交性、加えて並外れた馬力を高く評価し、かわいがっていたのだ。

”常務は、現在折衝中のカナダ共同事業プロジェクトは、おいおい私にと計っていてくれた…。副社長のポストを巡って役員間で熾烈な駆け引きに最中、周囲の反対を押して…。それなのに、私…”

ジュリはガラにもなく、己よりも自分を引き立ててくれている江副の身を案じていた。


...


江副の室前…。
ジュリは大きく深呼吸してからノックした。

「…失礼します」

「ああ、忙しいところすまん。まあ、掛けたまえ」

室内には江副一人で、今のところ他には誰もいないようだった。
警察も…。

ジュリは応接のイスに腰を下ろした。
彼女は江副を前にして、既に緊張感で胸の鼓動が耳に届くほどだった。
そして、江副はデスクチェアに掛けたままで、ジュリに切り出した。

「まずは、じき社内中に知れ渡るだろうから君には耳に入れとこうと思う。今朝、総務の若い女子職員が急死したらしい。まったく、ここ最近これで3人目か…」

「…」

Jリードレンでは、この半年で20代の女性社員が二人”急死”していたのだ。

...



「…これからウチは、やる気のある若い女性の人材を主戦力にしていく方針だからな。まあ、偶然だろうが…、変な噂が立たなければいいが…。まあ、キミにはその先駆けとして、どんどんステージアップしていってもらわんとな、はは…。そこで例のカナダとのプロジェクトだが…」

”え…?じゃあ、常務はアユムの件で私を呼んだんじゃないの…”

ジュリはややあっけにとられたが、正直、胸をなでおろしていた…。





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