都市夢ーとしむー
その2/意外な話


「…実はヘンネルの執行役員が、近々来日する意向で、わが社に折衝を求めている。具体的に合同事業の条件面を煮詰める目的でだ。その際、メインのプレゼンは君のチームに任せたいんだ。どうだね?」

ジュリにとっては、まさに青天のへきれきだった。
カナダ企業へンネルとの合同事業を提案したのは、推進企画室のジュリのチームではあったが、もっぱら事前折衝の交渉は室長の金熊が現地ロビースタッフにあたらせていたのだ。


...


「しかし、常務…。金熊室長はご存じなんでしょうか?」

「キミが了解してくれたら、私の事業推進部直属で本プロジェクトの特別企画室を設置し、その臨時室長にキミを就任させる旨を告げる。要はできるかどうか…、キミの判断次第だ」

ジュリは、あまりに唐突かつ予想外な江副の話に戸惑っていた。

年齢は一周り以上の大先輩である直属上司から離れ、臨時とは言え、別部署の同列役職に自分みたいな若い女子社員が就くなど、全くの異例だ。
当の金熊はもとより、他の役員からも反対の声が上がるのは目に見えている。

「はは、さすがの影山ジュリも、ちょっと腰が引けてるようだな。…いいか、私の女性スタッフ重用方針は副社長の全面了解を得て進めている。多少の反発など想定内だし、その対処も万端用意できているよ。キミは余分なことを考える必要はないさ。やってやるという気構えのあるなしを聞かせてくれればいい」

江副は、やや砕けた口調でジュリに安心感を与えてから、再度角度を変えて迫った。


...


「…常務、少しお時間をいただけますでしょうか。何しろ突然のお話でしたし、自分なりにいろいろ考えを及ばせたいこともありますので…」

「よし、明後日、改めて返事を聞こう」

「はい、ありがとうございます」





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