都市夢ーとしむー
その3/エレベーターの中


この後、江副はデスクから応接のイスに移り、ジュリの正面に座った。

「…キミも承知はしていると思うが、これは時期副社長を決めるパワーゲームも孕んでいるんだ。今月末にはパリから海外営業部の派遣スタッフ3人が戻ってくる…」

このスタッフの中には同期の清田イズミも含まれていた。

「…営業部を握る谷川専務は、ルルーヌとの業務提携を社長派役員連中と組んで役員会に諮る腹だ。当然、へンネルとの共同事業潰しということになる」

要は旧来の営業部と新たな時代を開拓する推進企画部の対決という構図で、今後のJリードレンの方向性を決する上層部の主導権争いが絡んでいるのは、ジュリもよく理解していた。


...


「…ここで、こっちサイドとしては、あくまで時代を敏感に捉える若い女性を思い切って抜擢していくという方針を全面的に掲げる。渡仏メンバーの一員に過ぎない清田イズミと同期の影山ジュリをこっちはヘンネル折衝チームの頭に据えれば、推進企画と営業の明確なスタンスの違いを突き付られるって訳だ」

「はあ…」

「どうした?いつものキミらしくないな。はは…、急な話だから無理はないが(苦笑)。まあ、ゆっくり考えてくれ」

”やはり、例のことが頭から離れないから、歯切れよく言葉が出ない…。常務は単に急な話と言うことで見ていてくれるようだけど…”

ジュリは約10分ほどの話を終えると、江副の室を出てエレベーターホールに歩いて行った。


...


2階に下るエレベーター内は誰もいなかった。
確かに…。
しかし…、ジュリはふと気配を感た。
そして、後ろを振り返ると、いつの間にか”彼女”は立っていた。

”また現れた!”

すでにエレベーター内が別の空間に移った感触がジュリを覆い、時間は止まっている感じだった。


...


「あなた…、一体誰よ!」

ジュリは再び現れた黒いスーツの女に向かって、思わずヒステリックな声で叫んだ。

「私の名はリカってことにしといて。…今からアンタには、私の要求を告げるわよ」

”いよいよ、この女の目的が聞ける。おそらくアユムのことも…”

二人はエレベーターの形をした妖空間で面と向かった。
だが、その間隔はジュリにとって、途方もないほどの距離を感じずにはいられなかった…。




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