都市夢ーとしむー
その3/起ーオキー
奥の段の間は出入り口は1か所であったが、北側の壁下に黒く浮遊する通気口のような隙間がある。
”そこ”は、人間が現世を営む世界をつなぐ、言わばトンネルだった。
...
「いずれはジュリも、ここから向こうの世界とこっちを行き来するようになる…。いや、それは結構早く訪れるかも…」
リカはそんなことを呟きながら、黒い浮遊空間にじっと視線を注いでいた。
すると、黒いぼんやりとした渦が慌ただしく反応しだした。
”来たわね…”
リカはその気配で、”来訪者”を探知していた。
...
「起(オキ)、いらっしゃい…」
「おお…、リカ。ふう…、ええ加減、ここへ来んのもしんどくなってきたわい」
骨と皮で覆われたその老人は、肩で荒い息を吐き出し、段の間に這いつくばっていた。
「…しかし、今回のタマは眩かった。リカ、ええもんができたぞ、ほれ‥」
全身ズブ濡れのオキがその手からリカへ放ったのは、アユムの残骸だった…。
「ふふ…、まことにいい香りね」
リカはそれを手に取ると、唾を飲み込んで、手にした瓶詰めの”エキス”に頬ずりをしていた。
「リカ、お主、あっちで何をやる気じゃえ?」
「うふふ‥、さあ、どうしようかしらってとこよ、オキ」
「…この老いぼれにも”来ている”のは感じてる。お前も、それを見越してるんだな?」
「…」
...
「ほー、僕(シモベ)をな…。ずいぶんと久しいことだが、どうせ立ちんぼになる運命じゃないのか?」
「ううん。今度の女はいいのよ。性根が真っ黒で、使えるわ。今回の仕事には…」
オキは口をクシャクシャしながら、くぼんだ目でリカをくり抜くようにその本意を探っているかのようだった。
...
起(オキ)…。
天井獄に現出するこの骨と皮だけの老体は所詮、リカの”陰”に過ぎない。
従って…、この時、奥の段の間には、リカの自問自答がこだましているだけであった…。
奥の段の間は出入り口は1か所であったが、北側の壁下に黒く浮遊する通気口のような隙間がある。
”そこ”は、人間が現世を営む世界をつなぐ、言わばトンネルだった。
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「いずれはジュリも、ここから向こうの世界とこっちを行き来するようになる…。いや、それは結構早く訪れるかも…」
リカはそんなことを呟きながら、黒い浮遊空間にじっと視線を注いでいた。
すると、黒いぼんやりとした渦が慌ただしく反応しだした。
”来たわね…”
リカはその気配で、”来訪者”を探知していた。
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「起(オキ)、いらっしゃい…」
「おお…、リカ。ふう…、ええ加減、ここへ来んのもしんどくなってきたわい」
骨と皮で覆われたその老人は、肩で荒い息を吐き出し、段の間に這いつくばっていた。
「…しかし、今回のタマは眩かった。リカ、ええもんができたぞ、ほれ‥」
全身ズブ濡れのオキがその手からリカへ放ったのは、アユムの残骸だった…。
「ふふ…、まことにいい香りね」
リカはそれを手に取ると、唾を飲み込んで、手にした瓶詰めの”エキス”に頬ずりをしていた。
「リカ、お主、あっちで何をやる気じゃえ?」
「うふふ‥、さあ、どうしようかしらってとこよ、オキ」
「…この老いぼれにも”来ている”のは感じてる。お前も、それを見越してるんだな?」
「…」
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「ほー、僕(シモベ)をな…。ずいぶんと久しいことだが、どうせ立ちんぼになる運命じゃないのか?」
「ううん。今度の女はいいのよ。性根が真っ黒で、使えるわ。今回の仕事には…」
オキは口をクシャクシャしながら、くぼんだ目でリカをくり抜くようにその本意を探っているかのようだった。
...
起(オキ)…。
天井獄に現出するこの骨と皮だけの老体は所詮、リカの”陰”に過ぎない。
従って…、この時、奥の段の間には、リカの自問自答がこだましているだけであった…。