都市夢ーとしむー
凱旋帰国の女
その1/追悼の念



清田イズミは成田空港に到着後、他の渡仏メンバーと別れて群馬の高崎に向かった。

”アユム…。あなたがもうこの世にいないなんて…”

イズミがアユムの急な訃報を知ったのは、帰国する10日ほど前だった。

”彼女にはとうとうあのこと、伝えられなかった…。ゴメンね、アユム…”

赴任地のパリで、イズミは同時入社だったアユムの冥福を祈ると同時に、ある悔恨の念を捧げてていた…。


...


午後2時過ぎ…。
イズミは空港まで迎えに来てくれた七瀬マリの運転する車中にいた。

「…悪いね、マリ。わざわざ成田まで来てくれちゃって」

「ううん、ついでに成田山でお守り代えてきたから。有給も貯まってたしね、ハハ…」

「でもさ、マリはアユムとは同期って言ってもそんな親しくなかったし。誘うの、抵抗あったんだけど…」

「まあ、Jリードレンには1年ちょっとしかいなかったしね。あの会社の人間でさ、今連絡取り合ってるのはイズミだけなんだよね。そのあんたに誘われたんだしさ…」

マリは一時期、ホストクラブにハマった際、イズミにはかなり”助けてもらった”経緯があった。

彼女には、その恩義を今日、埋め合わせする算段が多分にあったようだ…。


...


「でもねえ…。まだ20代だってのに…、あのアユムがね…。気の毒だけど、人間の運命なんて一寸先は何とやらだよな、実際」

「…その通りだと思う。今回のパリ滞在中にもさ、私たち危うくテロに巻き込まれるところだったし…。でも、そういう突発的な事故というか災害なんかじゃなくて、若くてもある日突然、人間って死んじゃうもんなんだね…」

「うん…」

20代の若い女二人によって死生観が語りあわれていた軽ワゴンは、すでに関越道に入っていた…。





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