都市夢ーとしむー
その2/寝耳に水



金熊は業務推進企画室を出る際、ふと”彼女”に視線を移した

その彼女こと、ミス”目の上のたんコブ”影山ジュリは、若手グループの一人を説教中だった

”あ~あ、先輩とは言え、女の前で直立不動でアホかよ、郡司のヤツ。情けねー…”

ジュリの視線がこちらにスライドしそうな気配を察し、金熊はスッと室外へ出た。


...


エレベーターの中で、金熊は副島の要件を予測していた。

”営業部がルルーヌを持って帰ってきたこの日だ。普通なら、ヘンネルの進捗状況を問われる…。だが、”それ”は影山から逐次報告が入ってるはずだ。となると…”


...


「常務‥、遅くなりました」

「ああ、そこへ掛けたまえ」

「はい!」

金熊は大学時代レスリング部で鳴らした、コテコテの体育会系であった。

...


「金熊室長、君に推進を願ってるヘンネル社の件だが…」

”そら、来たわ…”

「どうかね、合同プロジェクトの方は…」

「いやあ、なかなか先方も、条件提示をハードル高く持ちこんできてますんで、ちょっと様子を見てる状況です」

「そうか…。実は営業部のパリ部隊がルルーヌ社を丸めこんできたらしく、来週にも海外提携を役員会に諮る腹だ。君の方がやってやれという意気込みなら、私もオポジションとは徹底抗戦を決断するつもりだが、負け戦は御免だ。どうかな?」

「そうですね…。現状では無理に対抗しても勝ち目はないかと…」

「そうか…。それなら、今回はルルーヌにヘンネルをぶつけるのを見送るか」

ここで金熊は、心の中でニヤッとした。
だが…、だった。


...


「…常務、私としても旧態依然の営業部に試合放棄は誠に遺憾ながら、今回はそれが無難かと存じます」

「わかった。企画室長を任せてる気味がそう言うんだ。ヘンネルは役員会でぶつけない。そこで、君が先導するヘンネル社とのプロジェクトは見込みなさそうだから、中長期戦略を主眼と新たな企画室を設立して、そこへ移そうと思う」

「はっ…?」

金熊の目は点になっていた…。





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