都市夢ーとしむー
その4/それぞれの策意



「安達君!」

「ああ、室長…」

安達は速足で業推企画室へ戻った金熊とアイコンタクトを交わし、”了解”した。

数十秒後、二人は業推企画室の一番奥にあるチーフ・ミーティング・ルームに入り、再びヒソヒソ話を開始した…。

...


「えー!…じゃあ、今後のヘンネル社折衝は影山君がトップで仕切るってんですか?」

「ああ、そうなる。業推企画の編属下ではあるが、影山が新たにヘンネル社対策プロジェクトチームを立ち上げ、直属の上司は江副常務となる」

「…室長、それって随分と異例の組織編成だと思いますが、我々にとっては、デメリットの方が大きいんじゃあないですかね…?」

「安達君よう…、キミの頭には柔軟剤を流し込む必要があるな。昼、外に出たらハ○ングかア○ロンでも買ってきたまえ」

「勘弁してくださいよ…、室長~」

...


「安達…、いいか…!常務は影山ジュリとデキてるってもっぱらだ。…今回、海外営業部がその威信にかけて、パリに赴きルルーヌ社のゲットに総力を注入した。それに対抗して、我が業推企画室は国内からカナダ企業ヘンネル社との提携を図った。これはね、仏語が堪能で渉外能力に長けた海外営業のプリンセス・清田イズミに、英語力ではずば抜け、バリバリの営業手腕を持つ清田とは同期の影山ジュリをぶつけたって絵柄だよ。江副常務がな」

「はあ…、それは理解してますが…」

「アホ!それがわかってるんなら、江副常務の思惑を逆利用すりゃあいいんだ。影山のPTがオレの所轄からは離れりゃあだよ、キミ…、ヘンネルで影山がコケても、業推としては直接の責任が及ばないだろ」

「はあ…、そうなりますな…」

...


「逆にヘンネルを取り込めそうって展開になれば、業推企画室本隊から応援を送り込んでやろう。旧影山部隊をな(薄笑)。そうなりゃあ、勝負時でヤツに恩を売れる。事成就の暁は、常務からも感謝されるしな。当然、あの人も社内的に優位を得る…」

「なるほどー!今回、対ヘンネルのPTは少数精鋭で、今彼女が抱えている部下は業推に置いて行く訳ですもんね…。つまり、現在、業推内では目の上のタンコブが出ていってくれる上、こっちの布陣は増し、然るべき局面となればヤツの元部下を貸し出してやる…。こりゃあ、いいや」

”あーあぁ~…、このくらいのこと、瞬時に分かれって。全く…。こうも、”社内”の男運が恵まれねんじゃあ、オレも苦労するわ。ふう~”

この時、ちょうど正午15分前だった。
Jリードレンの各フロアには、フレックス・アフタヌーンのコールミュージックが流れていた…。




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