都市夢ーとしむー
その5/伝達事項


その日の午後…。
推進企画の室長・金熊は、部内の全員を集めた。

「…という訳で、皆の耳にはもう入ってる通り、パリの派遣営業部隊がルルーヌと事業提携の基本合意を取りつけていたというこの時期ではあるが、ヘンネルの執行役員が来日する機会を捉え、ここは中長期視野の元、共同事業の折衝は継続すべしとの江副常務に方針を、業推企画の責任者として受け入れることとした」

金熊は常々、この類の伝達事項ではミーティングルームを使用せず、デスクフロアに立った状態で皆に申し送りを行っていた。

その際、他の企業でよく見かけるように、話をする人間の前に皆が寄ってという形態ではなく、約35人の企画室職員は、各々が自席の前に立ったその場で話を聞かせるというスタイルだったのだ。

当然のごとく、金熊は広いフロア全体に行きわたる大声で、その話っぷりは、政治家が選挙に臨む決起集会での選対事務局長の決起宣言に近かった。

...

「…ただし、ルルーヌと提携していくことは、役員会で正式承認を得る見込みだし、企業コンプライアンスの観点でも、従来のように推進企画室全体でプロジェクトを組むという訳にはいかない。そこで…」

ここで金熊は、向かって右前方約4Mの位置にいるジュリに目線を向けた。

姿勢を正したジュリは金熊と視線を合わせても、全く表情を崩さない…。

”ふん…、実に堂々としてやがるわ。まあ、ここは事務的にやったさ”

金熊は胸の中でこう呟いた後、ジュリをヘンネル折衝プロジェクト特別対策室の責任者に据えることを皆に発表した。






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