都市夢ーとしむー
その2/操られし男



「…僕は慌てて、とにかく窓を開けてまず下を見ました。したら…、原さんらしき女性は転落してましたよ、間違いなく。もっとも、回りには誰もいなかった。通行人なんかも一人とて見当たらなかった…。それ自体不思議なんですが、その時はそれ以上頭が巡らす、その後、上を振り返ったんです。そしたら、屋上のフェンスから身を乗り出して、下を見下ろしている影山さんが視界に入りました…」

「あなた!それ、なんで黙ってるの!警察には?」

「言いませんよ。言えませんって」

「なんでなの!」

「…もう一度下を見たら、いなかったですから。転落した原さん…。そして、その時は通行人が大勢行き交っている…。どう見ても、普段の風景と変わりないんです!じゃあ、さっき目にしたのは一体って…。自分は夢か幻想を見てるんだと…。そう考えいたるのが、一番自然でしたよ。はは…」

...


イズミはどう繕っていいかわからなかった。

そもそも、彼女がパリから帰ってきたあと、急死した原アユムの群馬の実家まで足を運び、母親からアユムが自宅で寝たまま息を引き取ったとこの耳で聞いていたのだ。

会社のビルの屋上から転落死な訳がないのは、彼女自身が一番良く承知していた。

「とにかく、一応、伝えましたんで。役目は済ませたことになるし。…清田さん、忙しいのに時間取ってもらってありがとうございました」

「ええ、こちらこそ…。まあ、にわかに信じがたいとは言え、親切に教えてもらって…。ああ、安心して。このことは絶対に誰にも言わないから。それと…、今後何かあれば、私のケータイに掛けて。番号教えるから…。ああ、あなたのもね」

イズミはその時、咄嗟に彼とは今後も連絡を取りあう必要性を感じたのだった…。
無論、その理由は漠然としていたが…。

...


「はい。どうもです。では、自分は戻ります。あまり長い時間デスクを離れると疑われて恐ろしい目に遭わされるので…」

そう言って、彼は去って行った。

”不自然…”、イズミにはこの3文字が何しろ頭に浮かんでいた…。





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