都市夢ーとしむー
その3/”カレ”との過去


彼女はまだ頭が混乱していた…。

”いや‥、意図的に混乱させられているのかも…。誰かに…”

混乱するアタマで、さらにそんなことまで考えが及ぶに至り、パリから帰って間もないイズミは疲労も伴って、整理の持って行き場をなくしていた…。

”とにかくカレに会ってからだ。アユムのことは、カレが一番知ってるんだもの…。ああ、アユム、ごめんなさい。私…”

...


イズミがカレのアパートについたのは、夜8時近かった。

”なんて久しぶりなの…、ここ…。懐かしい…”

東京西部に位置する私鉄沿線の閑静な住宅街に、ひょっこり佇む古い木造2階建てのアパート…。

その2階に住んでいるカレは、営業部で1年後輩の志田慎也…。
そう…、死んだ同期のアユムが、結婚寸前まで付き合っていたか彼氏であった…。

...


ここに一人で来たのは、実は初めてだった。
だが、この部屋で慎也とは一度だけだだが、抱きあったことがあった。

その時、隣の布団で眠っていたのが、原アユムだった。

”あれは、彼が入社して間もなくのころだったわね。確か、総務課のスキーツアーに若手が集まらず、男女一人ずつをノルマに課せられた彼女に泣きつかれてね…。スキーは上級者だって日頃から公言してた志田君を誘ったんだよな‥”

”あの日は、スキーの時の写真とか動画を3人で見ながら盛り上がろうってことで、大酒飲んで…、アユムはへべれけになって先に眠っちゃった。その後…、彼女が眠ってる横で、慎也と激しく抱き合った…。ほとんど勢いで…”

”その後、当時彼氏付きだったアユムが空き家になったと同時に、あの二人は付き合いだして…。お似合いだったわ、アユムと慎也…。私はてっきり結婚すると思ってたけど…。結局、ゴールはできなかった…”

”その後、私はもう一度、慎也と寝た。パリで…。その時は勢いもあったけど、アユムとは別れる前提みたいな空気を感じて、どこかに彼とはこの後もって気持ちが伴っていての行為だったわ。だから…、アユムには彼女が結婚を真剣に考えた相手とのこと…、アユムが慎也と付きあう前と婚約破棄後の2度寝た事実を、あなたが会社辞める前に告げるつもりだった…。それ、できなかったよ、アユム…。ごめんね…”





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