都市夢ーとしむー
その４/その夢、来たる…


翌朝、イズミは５時前に起き、慎也の部屋を出た。
始発で一旦自宅に寄り、着替えだけ済ませると何とか、いつもの時間通りの電車に乗り込んだ…。

”ふう…、朝のミーティングには間に合うか…”

イズミはホッとしたせいか、ほぼ満員の車内で立ったままウトウトし始めていた…。
そして彼女は、そのまま睡魔に夢の中へ誘導させるのだった…。

...


”そこ”は濃い霧に覆われていた。
彼女はバス停に向かって歩いている。
視界がほとんど閉ざられているのに、なぜか自分の歩く道は見えていた。

それは五感以外の感覚という探知機によって…。

...


イズミは何度も角を曲がり、目的地へ迷うことなく近づいていった。

”次の角を左に入ればバス停が視野に入る…”

彼女にははっきりとそのことが分かっていたのだ。
明らかに初めて訪れる”場所”なのに…。

さらに、その先の光景も予測できていた。
いや…、正確には、見えていたのだ。

”もうすぐだ…。たぶんバスはもう来てる…”

イズミはその角にさしかかると、まさに左の視界には”そこ”が現れるまさにその瞬間…。


...


”あっ！”

ここで彼女の意識は通勤ラッシュの車内に戻った。
思わず周辺をきょろきょろと見回すと、”いつも通り”の空間に間違いない…。
この認識は数秒後、イズミに衝撃をもたらした。

”あの夢だ！…私は白いバスの待つバス停に向かっていた。自分の意志で…。ということは…”

既にこの時には彼女は全身から血の気が引き、それと同時にじわーっと油あせが滲んだ。

そう…、今”見てきた”空間へ意識が訪れたその意味を、イズミは承知していたのだ…。






< 67 / 115 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop