都市夢ーとしむー
魔を宿した手
その1/魔を宿した手



”来た…!”

その日の夕方ちかく…、それは突然の来光だった。

ジュリはデスクを立ち足早に推進企画室を出ると、6階のエレベーターホール脇のコーナー向かった。
ここは自販機の陰で、ローカを歩く人間からはちょうど死角になっていたのだ。

既にジュリは両手をかざして、左右の手の甲に緑色の顛末が訪れているのを確認していた。

”痛くないわ!手の甲は隆起しててその感覚は伝わるけど、痛みはない…。私、成就したの?”

と、その時、両手から視界を外すと、辺りはたった今までと明らかに異なっていた…。
と言っても、エレベーターや自販機もそのままで、明らかにその場所ではあった。
だが、空気が違った。

皮膚感覚では、重たく淀んでいるような…。
そう…、”あの時”のエレベーター内と同じだった。

...


”あの時はリカがいたわ。じゃあ、ここにも…”

ジュリはローカの向こう側を凝視した。
既にそこも、さっきとはまさに似て非なる場所と化していた。

そして背の高い黒い影はジュリの前方およそ10のところでスーッと現れ、そのまま瞬間移動で瞬きの間にジュリの目の前に立っていた。
確かにそれはリカだった…。

...


「リカ…」

「ジュリ…、来光をコントロールできたわ。早かったね。となれなば、即試しなさい」

「もうできるの…、私…」

「今アンタが思い描く全部はムリよ。でも”肝心なの”はできる。放つの、魔波を。両の”光る口”から。不着光なら私が手を加えるから」

「いいのね、私の考える謀に従って…」

「やりなさい」

「…」

ジュリは再び来航している手の甲に目を移した。
ここで、この女は悟った。

”沸点を迎えた。ここから沸き立つ魔の波動を放てるんだわ”

影山ジュリは、”人間”を捨ててシモベとなった代償を手に入れたのだった…。






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