都市夢ーとしむー
その2/思わぬ知らせ


前日の役員会決定を受け、総務課のみならず、その日のJリードレンは、海外営業部と清田イズミの昇格を巡る話題一色に染まった。

当のイズミも社内から熱い注目を浴びているのを肌でヒシヒシと感じていたが、この日は終業時間と同時に本社の入っているLXビルを足早で後にした。

”さあ、早く自宅に帰らなきゃ…”

そう…、イズミには一刻も早く、ドア・ツー・ドアで約40分を要する都内K市郊外のアパートに戻らねばならない”理由”があったのだ。

...


それは、昼に公園で郡司とあった後、会社に戻る途中だった。

”プルル…、プルル…”

信号待ちしているとイズミのスマホから着信音が鳴った。
ディスプレイを確信すると、見覚えのない固定電話からの番号だった。
そして、その電話番号の市外局番は、明らかに”地方”のものだったのだ。

一瞬、電話に出るかどうか迷ったが、イズミは”迷惑電話”覚悟で着信することにした。

「もしもし…」

『ああ、もしもし…。清田さんのケータイでよろしいですか?』

それは年配の女だった。
しかも、一声を聞いてその手の営業口調ではないことがわかった。

”となると、この人は…”

...


『わたくし…、原アユムの母です。清田さん、先日は遠くからわざわざ娘に”会いに来てくれて”、ありがとうございました』

なんと電話の主は故原アユムの母親だった…。

「いえ…、こちらこそ、急にお邪魔してすいませんでした」

あの日…、群馬の生家へ元同僚の七瀬マリと共に、急死しアユムの仏前に手を合わせに行った折り、アユムの母には自分のケータイ番号と自宅住所のメモを渡して置いたのだ。
それは何の気なく…。

『あのう…、今昼休みの時間かなあと思って、いきなり電話しちゃったんですが、大丈夫ですか?』

「はい。今、昼食を済ませたところで外ですので、大丈夫です。…お母さん、何かありましたか?」

ちなみに、イズミはこの日昼食をとっていなかった。

『実は…、昨夜、アユムの部屋を整理していたら、清田さんに当てた封筒がありまして…』

「…」

あまりに唐突だったアユムの母から出たその一言に、イズミはあっけにとられていた。





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