都市夢ーとしむー
その3/封筒の中身


『…どうやら、あなたに渡すつもりの書類か何かみたいだったんですが、中身は見ていません』

”アユムが私に渡すつもりだったモノ…。それは一体…”

イズミの頭の中はそれこそ、わずかな瞬間にも”いろんな”モノが浮かんだ。

『…私としては気になってしまいましてね。それで今日、教えていただいたあなたの住所へ手渡しのレターパックで発送手配したもので、その旨をお伝えしておこうと思いまして…』

「そうですか…。それはお手数おかけしました。ご丁寧にご連絡までいただいて…。受け取りましたら、こちらからもお電話させていただきます」

アユムの母とはこの用件のみで通話を終えた。

...


社内に戻って頭を整理したあと、イズミは思った。

”仮にアユムが契約だか何だかで、自分の命はもうわずかだと承知していたとしたら…。心残りのことを済ませておきたいと考えるのが普通だろう。じゃあ、私に宛てた封筒って…。私へ伝えておきたいことなのか…。もしかしたら、慎也のこと気づいていて…”

まずは、アユムが結婚寸前までだった彼と自分が、密かに関係していたことを彼女が知っていた前提が思い浮かんだ。
その場合なら、彼女が心中を綴った手紙とか、二人の会っている現場を撮った写真とか、封筒の中にはそんなものが入っているのかもしれないと…。

また一方では、他の前提も考えた。

”亡くなる前日にJリードレンでジュリと会っていたのが本当だったとすると…。それも何か彼女に言っておきたいこと、若しくは確かめたいことがあったのかも…。でも、会った場所が会社…、しかもアユムの属する総務課のフロアってことは、仕事がらみのことだろうか…”

イズミは何しろ、一時も早く”その中身”を確かめたくなった。

”せっかくお母さんが急いで送ってくれたんだ。今日は早く部屋に戻って配達を待とう…”

慎也には、午後2時過ぎにこの件をラインで知らせた。
そして、彼からのリターンが届いたのは、夕方4時前になってからだった。





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