都市夢ーとしむー
その4/共同戦線



都内某所に事務所を構える弁護士、日下辰巳。
沢井とは、彼が刑事時代から旧知の仲であった。

日下の事務所にその沢井が到着したのは2時半すぎだった。

...


「…じゃあ、とにかく浅間さんとはしっかり話ができたんだな?」

「ああ。体調はホントによさそうだった。娘さんも終始立ち合ってくれたし。収穫だった」

「それで?…浅間さんはやはり深刻な状況と見てるんだな?」

「うむ…。極めてってことだ。波動が今までとは明らかに違うと…。一線はもうポーンと超えちまってるってな」

「うーん。まあ、俺の方としては、そもそも、お前の解釈自体もにわかに信じがたいってスタンスだからな。そう言われても、今ひとつなんだ。正直な」

「それでいいさ、お前は。今はな。だが、現実にあの白日夢を見てて急死した少女が、弁護士としてのお前に書置きを託した。これは事実だ。その仕事、全うもしてる。その立場で俺の持論を聞いてくれればいいんだ」

「わかった。…何しろ、そのリカとかって魔物だか何だかが、こっちの世界に今までとは違った接触をしてきてる。浅間ユイは、ここで何らかの手を打たねばヤバイってことなんだよな?」

日下は、応接の正面で煙草の煙をスパスパやってる沢井に、淡々とした口ぶりでまず確認した。

...


「まさにあの人、ヤバイって言葉だったわ。…端的に言うぞ、日下。”例の女”はこれまで一貫して、自分がこっちの世界で人間の姿を得るために人間、いや、厳密に葉は若い女だが…。”それ”を必要だけしか”獲物”としていなかった。それこそ最低限しか…。戦後数十年間、ずっとだ」

「…」

日下は頷きもせず、首を左にちょっと傾けた格好でじっと聞き入っている。

「…それがここ数年でだ、そのペースがどっと増えた。そんな感触は俺も感じていた。しかも、契約者としての犠牲者はいずれも女子中高生を含めた若い女性だが、一定の場所に住んでいるか働いているかだ。特にここ最近じゃあ、ごく限られた狭い地域に絞られてると…」

「それが、S区の本陣坂通り辺りって訳か…。お前の家、それに元職場もそう遠くない。まあ、都会になるな」

「そうだ。あの女、リカは都会が大好きなんだろう(苦笑)」

ここで日下は、思わずこぼれ笑いを浮かべた。

...


”全く、文字通り都市伝説だ…。超常現象の存在などはなどハナから否定していた元刑事のコイツからとはな…。妹があんなことにならなかったら、沢井の口からこの話を聞くことなどなかっただろうが…”

沢井が”この件”で奔走する理由を知っている日下…。
一方の日下は、沢井の妹と同様の”現象”を”招き入れた”少女と、弁護士として接触を持っていた最中、彼女が突然死亡したという経緯に接していた。


この二人の共通事項こそ、彼らを危険な共同戦線に駆り立てた源泉だった…。





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