都市夢ーとしむー
その3/ネタあり


こういった言葉の対決では、アユムにとって彼女は到底かなう相手ではなかった。

「今更ながら、あなたが最低な人だってわかったわ。いろんな噂は耳に入っていたけど、そこまで卑しい心根を持ってはいないと信じていたのに…」

アユムは心の中で歯ぎしりをする思いで、精一杯言葉をぶつけていた。
が…、ジュリはヘラヘラしながら涼しい顔をしている。


...



「それは、期待に添えないでアイムソーリーだわ。ハハハ…」

自らの言質を突かれたアユムは、ここで切り札を出すことにした…。

「あなたにはかなわない…。すべてに於いて。IT業界で企画や渉外が勝ち組と負け組を左右するのは、言われるまでもないよ。私も承知してる。でも、私は6年間、あなたに喰わせてもらった訳じゃない」

アユムは、かつて自身の記憶にないほど自己を主張していた。
一方のジュリは、そんな彼女を目の当たりにし、明らかに顔色が変わっていった…。


...



「…私は気が変わったわ。Jリードレンという会社はあなたみたいな勘違い女、疫病神以外の何物でもない人間を甘んじ過ぎたのよ。私は退職前に糾弾するわ。それが、総務で6年間も会社の急成長期を裏方で見据えてきた人間の意地よ!」

ジュリは、言いいなりの事務職だと見下げていたアユムがここまで言い放ったことに驚きながらも、敵愾心をメラメラと沸き立たせていた。

”生存競争のし烈極まる業界で、この会社をけん引している私たちに対して、何偉そうに評論家ツラでモラルを説いてるのよ!”

既にジュリは顔を真っ赤にしていた。


...


「日常的な不正経費計上は告発させてもらう。他にも江副常務と二人でグルになって、あなたの飲酒運転の身代わりを嘱託職員に押し付けたことも知ってるのよ、私」

アユムはせきを切ったかのように、口撃へと打って出た。
さしものジュリも、一瞬あっけにとられて顔をこわばらせている…。

おっとりしていたアユムが、ここまで”ネタ”を素知らぬ顔でストックしていたことは全くもって、予想外だったのだ。





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