都市夢ーとしむー
その5/暗者ーアンジャー



「...浅間さんはさ、暗者の力を継承した最後の一人として、その立場からだったよ。余命もそう長くないと悟っているようで、悲壮な決意が伝わってきたわ」

沢井の口調はなんとも重苦しいもので、表情も先ほどとは一転してとても険しかった。

「...なるほど。つまりは、リカとかって女は、いよいよ人間社会へ入り込んできたというんだな。何らかの”目的”を持って...。そして、そいつの波動みたいなものを長年キャッしてきた浅間ユイは、この状況を危険水域と捉えているのか…」

「しかも、すでに早急な対処を要する段階にきているということだ。我々に与えられた時間は、もうわずかしかないらしい…」

「じゃあ、その根拠は何なんだ?」

弁護士らしく、日下の切り口はストレートだった。

...


「どうやら、人間の協力者...、まあ、こっち側からしたら裏切り者になるか…。リカが、そんな輩を取りこんでる動きは間違いないと見てるよ、浅間さんは。暗者の眼力を持ってな。これの意味するところは、あの女が現代の人間社会に侵食・寄生を狙ってのことじゃないかってな。そうなりゃ、当然誰の目にもクライシスだろうよ」

「…」

弁護士日下は即、言葉が出なかった。
そんな旧知の友を汲み取って、沢井はズバリ言った。

「浅間さんの見立てでは、すでに、”そいつ”は人間の持てる力を超えただろうってな。もはやリカは、人間の世界で配下を置いたに等しい」

「沢井…、その悪魔に魂を売った人間、浅間さんは見当がついているのか?」

日下は正面の沢井へ身を乗り出して、その答えを渇望した。


...


「…まず確実なのは、若い女…、そして、生活なり仕事なりで、大半の時間はS区、しかも本陣坂通りにいる人物…。そして、間もなくコイツの周辺では事件乃至は騒ぎが勃発するだろうとな。要は、本陣坂通りをマークしていれば、悪魔に魂を売った若い女が明らかになる」

「沢井…、お前、ひょっとしてその人物、心当たりあるのか?」

「心あたりとは違うかな。だが、明日会うことになってる女性と接点がある気がしてならない」

「おい、明日会う彼女って、例の白日夢を招き入れてしまった女性だよな。この辺で働く…」

「ああ…。その彼女、本陣坂通り中腹のLXビルに入ってる、Jリードレンの社員だよ。加えて言うなら、完璧、俺の推測だが、裏切者は彼女の同僚だと踏んでる」

「Jリードレンだと…?」

日下は明らかに動揺した顔つきに変わっていた。

”参った…。あの白日夢の震源地は、Jリードレンってことなのか…!”

日下は無言で沢井に目で何やらメッセージを送っていた…。






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