都市夢ーとしむー
その8/動揺




「…じゃあ、これ、俺への手紙ってことなのか?お前と俺、双方にってことではなく…」

「そう言うことだ。明らかに日下辰巳に宛てた浅間さんの手紙だ」

「なら、沢井…、お前はこれを…」

「うん…、俺はただ預かってきただけだ。中身は見ていない。…もっとも、あの人がこの俺と共同戦線を張ってくれてるお前に何を訴え、その手紙をしたためたかは想像がつく。現役のやり手弁護士からすれば、目を背けたいことが書かれてるだろう」

「沢井…!」

「日下…、お前は俺がデカを辞めたのは、妹の件だけと思ってるかもしれないが、カスミのことは確かにあるけどな、それだけじゃあなかった」

「それなら何なんだよ、直接要因とやらは!」

沈着冷静がトレードマークの日下だったが、この時は何故か自分でも不思議な程ヒステリックな気持ちになっていた。
しかし、目の前の沢井は表情を変えることもなく、淡々とした口調で答えた。

...


「…死の場所の選択が変わった。自分のな。そういうことだ」

「はは…、何言ってんだか意味不明だぜ、沢井」

弁護士である沢井は、明らかに動揺していた。

「日下よう…、刑事事件の最前線に立つデカは皆、死を覚悟してる。漠然とでもな。それは、刺し違えの覚悟だ。我が身を投げうつ価値ありとして、殉職を受け入れられる。…だけどさあ、それって、人間社会の作った法の傘に入っていることが前提になるよ」

「沢井!…もういいって、その先は言うな!」

旧知の仲である日下には、沢井の言は最初から”意味不明”ではなかったようだ。





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