新そよ風に乗って 〜慈愛〜
「そもそも、出張に一緒に行くと決めたのは、誰? 高橋でしょう? だったら、その高橋に直接その疑問をぶつけてみたら?」
そ、そんな。
「まあ、応えは分かりきってるけど」
「折原さん……」
「出張に一緒に行くことは、高橋が決めたんでしょう? それだったら、何も矢島ちゃんが悩んだりすることなんか、これっぽっちもないわよ。ビジネス的に言えば、上司が決めたことなんだから、部下はそれに従えばいい。個人的主観から言えば、仮にもし何かあっても上司の責任なんだから、部下は大船に乗っていればいいってこと。分かった? 分かったなら、どんどん食べる」
そう言って、折原さんは私の右手にフォークを持たせた。
「このサーモンも、美味しいわよ」
「はい……。頂きます」
それで、いいんだろうか? そんな風に割り切って……でも……。
「お待たせ」
エッ……。
声と同時に、目の前にお皿を置かれた。
「折原。相変わらず、キープ早いな」
「まあね」
「こっちも良かったら」
「は、はい。ありがとうございます」
高橋さんに言われて、思わず立ち上がってしまった。
「アッハッハ……。何、立ち上がってるの? 矢島ちゃん」
「あの、高橋さん。すみませんでした」
お辞儀をして顔を上げると、不思議そうな表情で高橋さんと折原さんが私を見ている。
「何の話だ?」
高橋さんは、折原さんを一瞬見たが、折原さんも小首を傾げた。
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