新そよ風に乗って 〜慈愛〜
「取り敢えず、寒いからドア閉めるぞ」
「あっ、はい」
そう言って、高橋さんは玄関のドアを閉めた。
「明日、朝迎えに来るから」
「えっ? あの、ありがとうございます。でも、空港までリムジンバスで行くので大丈夫ですから」
「……」
「空港のカウンターに行けば……」
「何時に何番カウンターか、分かってるのか?」
あっ……。
「す、すみません。まだ、何も伺ってなかったです」
そう言えば、eチケットもまだ受け取っていなかったから、何処に何時に集合なのかも分からない。
「フッ……。よく、それで羽田までリムジンで行くとか言えるよな」
「すみません。お聞きするのを忘れてました」
「eチケットは、俺が預かってる。明日、11時のフライトだから、朝6時に迎えに来るから準備しておいてくれ」
「でも、それでは申しわけないですから、私はバスで……」
「羽田まで車で行くから、1人も2人も一緒だ。それとも、これから16日間も俺と毎日顔を突き合わせるのに、明日の朝からだと長すぎると思うんだったら、また話は別だが」
「そ、そんな、そんなことないです」
高橋さん。そんな真顔で言わないで。でも、目は笑っていた気がする。
「それなら決まりだ。明日、朝迎えに来るから、そのつもりで」
「は、はい。すみません。ありがとうございます」
高橋さんが、迎えに来てくれるなんて。何だか、申しわけないな。ガソリン代と高速代、払わなきゃ。
「それから……」
言い掛けた高橋さんを見上げると、今までとは違う真剣な面持ちでこちらを見ていた。
高橋さん?
間近で目が合って、思わず恥ずかしくなって下を向いてしまった。何だろう。ドキドキして、高橋さんの顔をまともに見られない。行動がまったく読めない高橋さんの意図することが、よく分からない。
高橋さんの服の衣ずれる音がすると、突然、音もなく目の前が真っ暗になって何も見えなくなってしまった。
エッ……。
な、何? 高橋さん。
「昨日のことだが……。人に裏切られるほど、哀しいことはないよな」
耳元で、高橋さんがそんなことを呟いた。
高橋さん……。
「仲間だと思っていた相手に裏切られるほど、傷つくものはない」
高橋さんの顔を見ようとしたが、高橋さんのジャケットに顔を押しつけられていて思うように身動きが取れない。
「あの場所に居合わせて、矢面に立たされて辛かったと思う」
高橋さんの長い右腕が、私の腰付近にある左腕とクロスさせて強く抱き締めた。
高橋さんは、心配して来てくれたんだ。
「あ、あの……私が、何かタイミング悪くて。きちんと説明も出来なかったからいけないんです。だから、その……大丈夫ですから」
確かに、あの場面で1人取り残されてしまって昨日はショックだったけれど、ただでさえ忙しい高橋さんに、これ以上心配を掛けてはいけない。
「そんなに、頑張らなくていい」
エッ……。
少しだけ緩んだ高橋さんの腕の中で上を見上げると、あまりにも近い位置に高橋さんの顔があって、恥ずかしさのあまり慌てて下を向こうとして間違えて高橋さんのジャケットに顔を埋めていた。
「フッ……。正直な奴だな」
「ち、違います」
「何が、違うんだ?」
「それは……」
高橋さんに耳元で言われているので凄く敏感に感じてしまい、高橋さんの何とも言えない低いソフトな声が直接鼓膜を心地よく刺激して舞い上がりそうだった。
あっ……。
高橋さんの身体が離れてしまった。その途端、その温もりも徐々に奪われていってしまう。それでもジッと見つめることしか出来ずにいると、高橋さんが玄関のドアノブに手を掛けた。
「明日、6時に」
「はい……すみません。よろしくお願いします」
離れてしまった温もりを追いかけるように一緒に玄関を出ようとしたが、振り返った高橋さんにそれを制止されてしまった。
「寒いから、此処で」
「あっ、はい」
そう言って、高橋さんは玄関のドアを閉めた。
「明日、朝迎えに来るから」
「えっ? あの、ありがとうございます。でも、空港までリムジンバスで行くので大丈夫ですから」
「……」
「空港のカウンターに行けば……」
「何時に何番カウンターか、分かってるのか?」
あっ……。
「す、すみません。まだ、何も伺ってなかったです」
そう言えば、eチケットもまだ受け取っていなかったから、何処に何時に集合なのかも分からない。
「フッ……。よく、それで羽田までリムジンで行くとか言えるよな」
「すみません。お聞きするのを忘れてました」
「eチケットは、俺が預かってる。明日、11時のフライトだから、朝6時に迎えに来るから準備しておいてくれ」
「でも、それでは申しわけないですから、私はバスで……」
「羽田まで車で行くから、1人も2人も一緒だ。それとも、これから16日間も俺と毎日顔を突き合わせるのに、明日の朝からだと長すぎると思うんだったら、また話は別だが」
「そ、そんな、そんなことないです」
高橋さん。そんな真顔で言わないで。でも、目は笑っていた気がする。
「それなら決まりだ。明日、朝迎えに来るから、そのつもりで」
「は、はい。すみません。ありがとうございます」
高橋さんが、迎えに来てくれるなんて。何だか、申しわけないな。ガソリン代と高速代、払わなきゃ。
「それから……」
言い掛けた高橋さんを見上げると、今までとは違う真剣な面持ちでこちらを見ていた。
高橋さん?
間近で目が合って、思わず恥ずかしくなって下を向いてしまった。何だろう。ドキドキして、高橋さんの顔をまともに見られない。行動がまったく読めない高橋さんの意図することが、よく分からない。
高橋さんの服の衣ずれる音がすると、突然、音もなく目の前が真っ暗になって何も見えなくなってしまった。
エッ……。
な、何? 高橋さん。
「昨日のことだが……。人に裏切られるほど、哀しいことはないよな」
耳元で、高橋さんがそんなことを呟いた。
高橋さん……。
「仲間だと思っていた相手に裏切られるほど、傷つくものはない」
高橋さんの顔を見ようとしたが、高橋さんのジャケットに顔を押しつけられていて思うように身動きが取れない。
「あの場所に居合わせて、矢面に立たされて辛かったと思う」
高橋さんの長い右腕が、私の腰付近にある左腕とクロスさせて強く抱き締めた。
高橋さんは、心配して来てくれたんだ。
「あ、あの……私が、何かタイミング悪くて。きちんと説明も出来なかったからいけないんです。だから、その……大丈夫ですから」
確かに、あの場面で1人取り残されてしまって昨日はショックだったけれど、ただでさえ忙しい高橋さんに、これ以上心配を掛けてはいけない。
「そんなに、頑張らなくていい」
エッ……。
少しだけ緩んだ高橋さんの腕の中で上を見上げると、あまりにも近い位置に高橋さんの顔があって、恥ずかしさのあまり慌てて下を向こうとして間違えて高橋さんのジャケットに顔を埋めていた。
「フッ……。正直な奴だな」
「ち、違います」
「何が、違うんだ?」
「それは……」
高橋さんに耳元で言われているので凄く敏感に感じてしまい、高橋さんの何とも言えない低いソフトな声が直接鼓膜を心地よく刺激して舞い上がりそうだった。
あっ……。
高橋さんの身体が離れてしまった。その途端、その温もりも徐々に奪われていってしまう。それでもジッと見つめることしか出来ずにいると、高橋さんが玄関のドアノブに手を掛けた。
「明日、6時に」
「はい……すみません。よろしくお願いします」
離れてしまった温もりを追いかけるように一緒に玄関を出ようとしたが、振り返った高橋さんにそれを制止されてしまった。
「寒いから、此処で」