新そよ風に乗って 〜慈愛〜
そんなことじゃない。
「これ……これって、ビジネスって……」
何で、私がビジネス? しかも、何故高橋さんまでビジネスなの? ファーストなんじゃ?
「ああ、それか。社長に、ちょっとジャブ入れただけ」
「はい? な、何でですか?」
社長にジャブって……。でも、何でまた?
「同じ飛行機なのに、別々って変じゃないか? それで社長に言ったら稟議書けっていうから、最もらしいことを書いて出したんだが……。流石に、ファーストは却下されたけどな」
高橋さんは微笑みながらそう言うと、私のおでこを人差し指で押した。
「でも……もったいないじゃないですか」
嬉しいけど、何だか会社経費の無駄遣いのように感じで申しわけない。
ハッ!
知らぬ間に、高橋さん的な考えになっている自分に気づいた。
「フッ……。こういう時のために、いつも残業代削ってるんだ。だから気にするな。社長もOKだったんだから」
私の知らない間に、こんなことまでしてくれていたなんて。自分のファーストのシートをビジネスに下げてまで、私をエコノミーからビジネスにしてくれた。
高橋さん。どうして? 貴方という人は……。
コートを手に持った高橋さんの振る舞いは勿論のこと、立って居るだけで絵になるような感じだから、先ほどのカウンターの女性もそうだったが周りの視線が痛い。
「ほら。大事な搭乗券は、早くしまっておいた方がいい。なくすと、また大変だから」
「は、はい」
言われて慌ててバッグに搭乗券をしまおうとして、改めてビジネス・クラスと書いてあるブルーのラインの縁取りの搭乗券を見ながら、初めて乗るビジネス・クラスに妙にワクワクしていた。そして、飛行機の中でも高橋さんと一緒に居られると思うと、それはやっぱり素直に嬉しくて……。
出発時間まで、まだ少し時間があったのでお茶を飲むことにしたが、航空会社のラウンジというところに初めて入ってしまった。
高橋さんは管理職なので何もしなくてもそのまま入れるのだが、私はそうはいかない。けれど、今日は搭乗券とパスポートを見せるとすんなり私までラウンジに無条件で入れてしまった。
しかも、ファースト、ビジネスクラスのラウンジに。

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