新そよ風に乗って 〜慈愛〜
周りも静かになったので暫くは同じ体勢でジッとしていたけれど、どうしても高橋さんが気になって落ち着かない。眠れそうにないから、モニター画面で映画でも観ようかな。少しだけ体勢を変えて、そっと高橋さんを見ると眠っているのか目を瞑ってる顔が見えた。
高橋さん。寝てる?
それにしても、綺麗な横顔。睫毛長いなぁ。きっとアイラッシュカラーでカールさせたら、綺麗に睫毛がアップするだろうなぁ。そんなことを考えながら暫く高橋さんの寝顔に見入っていると、突然、高橋さんが左目だけを開けてこちらを見たのでバッチリ目が合ってしまった。
ヒッ! た、大変。ジッと見入っていましたなんて、とても恥ずかしくて言えない。
「早く寝ろ。今のうちに寝ておかないと、後が辛いぞ。着いたら朝だから」
「はい。でも、何だかまだ眠くなくて……ングッ……」
高橋さんの左手がいきなり伸びてきて私の両目を覆うと、無理矢理目を閉じさせられた。
「ほら。いいから、早く寝ろ。寒くないか?」
高橋さんが左手で私の両目を覆ったまま、高橋さんが優しく問い掛けてくれた。
「はい……大丈夫です」
本当は、大丈夫じゃない。両目を高橋さんの左手で覆われているだけで、物凄く緊張してしまい、体が熱くなっている。
「そうか。寒かったら、CAに言えばブランケットをもう1枚持ってきてくれるから。それじゃ、おやすみ」
「おやすみなさい」
そうは行っても、高橋さんの左手は私の両目を覆ったまま。こんな体勢では落ち着かなくて、かえって眠れない気がする。しかし、それでも高橋さんの手が触れていることに段々慣れてきたのか、何だか不思議と安心出来ていつの間にか眠ってしまったらしく、機内が明るくなって目が覚めた。無論、すでに寝る前まで私の両目を覆っていた高橋さんの左手は離れていて、何時掛けられたのか、最初に掛けていたブランケットの上からもう1枚ブランケットが掛けられていた。
これって……。
見ると、寝る前まで掛けていたはずブランケットを高橋さんが掛けていない。
あれ? 高橋さんのブランケットは? もしかして、高橋さんが自分のブランケットを私に掛けてくれたの?
高橋さんを見ると、すでに起きていたらしく雑誌を読んでいた。
高橋さんは、飛行機に乗っても変わらない人だな。映画を観るでもなく、音楽を聴くわけでもない。ただ、静かに活字を追っている。
「ん? おはよう。少しは、眠れたか?」
視線を感じたのか、高橋さんがこちらを向いた。
「はい。あの、これ……高橋さんのブランケットじゃ……」
慌てて焦りながら、ブランケットを掴んで見せた。
「ああ、雰囲気?」
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