新そよ風に乗って 〜慈愛〜
背後から人の気配を感じたので、慌てて窓の方を向こうと体勢を変えようとした時、一瞬チラッと高橋さんを見た。
エッ……。
慌てて窓の方を向いて視線を合わせないようにしたが、窓の外の景色など全く視界に入らないほど、チラッと見えた高橋さんのその姿があまりにも衝撃的だった。
な、何? 今の……。
背中越しに聞こえたシートベルトを締める音が、無機質に響く。見てはいけないものを見てしまったような、落ち着きのない後ろめたさを感じる。
高橋さんの白いポロシャツの右肩辺りに付着したもの。くっきりと鮮やかに目を惹いた、赤い痕。存在そのものに違和感を覚える、あれはいったい……。
赤い痕……赤い……口紅?
嘘……でしょう?
しかし、哀しいかな。それを裏付けるように、高橋さんが座った時に仄かに薫った高橋さんの以外の香り。その残り香が、鼻を意地悪く刺激して心を諫める。確か、この香り……さっきのCAのなんじゃ? 搭乗した時から、気になっていた。香水の匂いがきつかったので、覚えている。この香りは、あのCAので……高橋さんのポロシャツには、口紅の痕?
高橋さん。
いったい席を立った後、何があったの? あのCAと、何かあったの?
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