新そよ風に乗って 〜慈愛〜
「う、嘘……」
次の言葉が出ずに思わず息を飲み込んで、高橋さんを振り返った。
「フッ……」
高橋さんは、右手で左肘を支えて左手の人差し指と親指を顎に置いて、フワッと笑いながらこちらに向かって歩いてくると、私の腰のあたりに左腕を回して窓際まで誘った。
ガラス越しに、マンハッタンの街並みが一望出来るなんて夢のよう。その斬新なデザインのビル1つとっても、周りの景色に違和感なく最先端の街を象徴するように溶け込んでいる。その中にあって格式ある古い建物の中には、あたかもアンティークなロココ調の家具が、ごく自然に備わっていることが容易に想像できる。ややもすると最先端技術を配備した周りのビルは無機質な冷たさを演出しがちだが、その歴史ある風格と存在感でオアシス的な役割を担い、時代を超越した風景の演出バランスを上手く醸し出している。時代の最先端の象徴の街、NEW YORK。こんな景色、生まれて初めて見た。圧倒されてしまい、言葉も出ないまま隣に居る高橋さんを見上げと、高橋さんもこちらを見た。
「最高だろう? 何時か、此処に泊まりたかったんだ」
「えっ?」
泊まりたかった?
「この部屋は、1人だけだと泊まれないんだ」
「そ、そうなんですか?」
高橋さん。そ、そんなこと言われたら、恥ずかしくて赤面しちゃう。
「何時も出張で来ても、1人のことが多いからツインの部屋にしか泊まれなかったんだ。コンドミニアムは、2名以上って条件があるから」
うっ。
そんな理由だったの? 期待して、損しちゃった。
コンドミニアム……。ふと、部屋を見渡すとドアが2つ。部屋もリビングを除いて2つあるみたい。ということは……さっき焦って妄想し過ぎた自分を思い出して、恥ずかしくなってしまった。
「しかし、アレだな」
エッ……。
アレって?
「お前。ひょっとして、さっきエロいこと考えてなかったか?」
「か、考えてないですよ」
「陽子ちゃぁーん? 顔赤い」
言い切られるように意味ありげに高橋さんに言われ、慌てて両手で両頬を覆った。
ど、どうしよう。高橋さんに、悟られちゃった?
「い、いえいえ。そんな……こと、な、ないですから」
「そぉかぁ?」
思いっきり疑いの眼差しで、探るように高橋さんが私の顔を覗き込んだ。
うっ。
ち、近い。近過ぎですって、高橋さん
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