新そよ風に乗って 〜慈愛〜
「フッ……。まあ、いいや。お前、どっちの部屋がいい? お望みとあらば、何なら一緒の部屋でもいいが」
そう言いながら、高橋さんは悪戯っぽく笑った。
「た、高橋さん。な、何、言ってるんですか」
結局、高橋さんが主賓室のベッドルームを使い、私はゲストルーム方を使うことで落ち着いた。
ゲストルームといっても、普通のツインベッドルームと変わらない。勿論、日本のホテルのツインベッドルームより遥かに広い。部屋全体を見渡すと、高橋さんが使っている部屋の他にキッチンも広くとってあり、洗濯機まで備え付けてある。2バス・2ベッドルームなのでバス・トイレも個々に使えるから、その点はホッと胸を撫で下ろした。
高橋さんがバゲージを部屋まで運んでくれると、まだ午前中ということとジェットラグを早く解消するためにも少しゆっくりしようということになり、シャワーを浴びてベッドに横になることにした。だが、興奮しているせいか落ち着かず、暫く横になっていたが眠れなくて起き上がってしまった。
何となくジッとしていられず、静かにドアを開けて隣の高橋さんの部屋の方を見たがドアは閉まっていた。
高橋さん。寝ているのかな?
キッチンに行って冷蔵庫を開けてみたり、システム・キッチンの扉を開けて調理器具を確認したりしていろいろ見ていると、ふと足下のゴミ箱に見覚えのあるシャツが無造作に捨てられているのが目に入った。
このシャツ……。
無意識に駆け寄って少し躊躇いもあったが、それよりも確認したい気持ちの方が勝ってしまい、ゴミ箱から見覚えのあるシャツを手に取って右肩辺りにあったはずのあの赤い痕を探した。するとやはりあの機内で見た赤い痕が直ぐに目に留まり、その鮮やかな色が胸を締め付けた。
嫌な予感は、当たってしまった。やはり機内で見たものは、想像通り……口紅の痕。あのCAの人のものだと確信した。
何処か、見えない場所に隠したい。ベッドメイキングの人が来たら迷わず持って行ってもらうところだが、今はまだ部屋に入ったばかりで来るはずもない。
何故?
どうして高橋さんは、シャツを捨てたの?
しかも、部屋の中の目に付くようなゴミ箱に。こんなところに、わざわざ捨てなくてもいいのに。
あっ……もしかして、高橋さんはシャツに口紅が付いていたことに、気づいていなかったの? でも、気づかなかったらシャツを捨てることはないはず。
高橋さんの考えていることが分からず、暫くシャツを両手で握りしめたままキッチンの出窓から見える景色を意味もなく眺めていると、急にドアの開く音がして高橋さんが部屋から出てくる足音が聞こえた。
どうしよう。
シャツを持ったままウロウロするわけにもいかずに身動き取れずにいると、案の定、リビングに行きかけた高橋さんが、私の存在に気づいてキッチンに入ってきた。
そう言いながら、高橋さんは悪戯っぽく笑った。
「た、高橋さん。な、何、言ってるんですか」
結局、高橋さんが主賓室のベッドルームを使い、私はゲストルーム方を使うことで落ち着いた。
ゲストルームといっても、普通のツインベッドルームと変わらない。勿論、日本のホテルのツインベッドルームより遥かに広い。部屋全体を見渡すと、高橋さんが使っている部屋の他にキッチンも広くとってあり、洗濯機まで備え付けてある。2バス・2ベッドルームなのでバス・トイレも個々に使えるから、その点はホッと胸を撫で下ろした。
高橋さんがバゲージを部屋まで運んでくれると、まだ午前中ということとジェットラグを早く解消するためにも少しゆっくりしようということになり、シャワーを浴びてベッドに横になることにした。だが、興奮しているせいか落ち着かず、暫く横になっていたが眠れなくて起き上がってしまった。
何となくジッとしていられず、静かにドアを開けて隣の高橋さんの部屋の方を見たがドアは閉まっていた。
高橋さん。寝ているのかな?
キッチンに行って冷蔵庫を開けてみたり、システム・キッチンの扉を開けて調理器具を確認したりしていろいろ見ていると、ふと足下のゴミ箱に見覚えのあるシャツが無造作に捨てられているのが目に入った。
このシャツ……。
無意識に駆け寄って少し躊躇いもあったが、それよりも確認したい気持ちの方が勝ってしまい、ゴミ箱から見覚えのあるシャツを手に取って右肩辺りにあったはずのあの赤い痕を探した。するとやはりあの機内で見た赤い痕が直ぐに目に留まり、その鮮やかな色が胸を締め付けた。
嫌な予感は、当たってしまった。やはり機内で見たものは、想像通り……口紅の痕。あのCAの人のものだと確信した。
何処か、見えない場所に隠したい。ベッドメイキングの人が来たら迷わず持って行ってもらうところだが、今はまだ部屋に入ったばかりで来るはずもない。
何故?
どうして高橋さんは、シャツを捨てたの?
しかも、部屋の中の目に付くようなゴミ箱に。こんなところに、わざわざ捨てなくてもいいのに。
あっ……もしかして、高橋さんはシャツに口紅が付いていたことに、気づいていなかったの? でも、気づかなかったらシャツを捨てることはないはず。
高橋さんの考えていることが分からず、暫くシャツを両手で握りしめたままキッチンの出窓から見える景色を意味もなく眺めていると、急にドアの開く音がして高橋さんが部屋から出てくる足音が聞こえた。
どうしよう。
シャツを持ったままウロウロするわけにもいかずに身動き取れずにいると、案の定、リビングに行きかけた高橋さんが、私の存在に気づいてキッチンに入ってきた。