新そよ風に乗って 〜慈愛〜
「酷い……高橋さん。そんな言い方って……。私には……私には、悪いけど俺はその気ないからって。機内で高橋さんは言っていたのに、その直ぐ後にはこうして……CAの人と平然と……。それを、何で私が見えるような場所に捨てるんですか? まさか、当てつけですか?」
あまりに酷い言い方をされて、堪えていたものが臨界点に達し、高橋さんに今の哀しみと寂しさをぶつけた。それと同時に堪えていた涙も溢れ出し、感情を上手くコントロール出来なくなってその場にしゃがみ込んだ。
綺麗に掃除の行き届いたキッチンの床のテラコッタ風のタイルに、涙の滲みが輪になって広がっていく。まるで、自分の体の中に無力感が染み込んで侵略していくように。
それでも高橋さんは、何も言ってはくれず暫く沈黙が続いていた。
「何時、俺がお前にそんなこと言った?」
エッ……。
そう言ってしゃがんでいた私を高橋さんが立たせてくれたが、とても怖くてまともに顔を見られない。
「ちょっと、来て」
高橋さんに腕を掴まれてリビングに連れて行かれると、ソファーに並んで座らされた。
膝を開いて少し前屈みに両手をその間で組みながら、高橋さんは床に向かってフーッと大きく息を吐き出すと、額に左手を当てながらこちらを向いた。
「お前の言っていることがよく分からないから、ちゃんと説明してくれるか?」
「高橋さん……」
そんな……今更、何をどう説明したらいいの? 意地悪な質問をされて、高橋さんと一瞬目が合ったが、行き場のない虚しさからまた直ぐ下を向いた。
「ああ、分かった。それなら、俺から説明してやるよ」
エッ……。
驚いて顔をあげ、高橋さんを見た。
「あのCAとは、初対面じゃない」
「えっ?」
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