新そよ風に乗って 〜慈愛〜
どういうこと?
思わず、声が出てしまった。
初対面じゃないって、あのCAと高橋さんは知り合いなの?
「前に1度、出張の時に乗り合わせている。その時に声を掛けられて俺も暇だったから、1回だけプライベートで遊んだことがある。それで、偶然また今日のフライトで再会したんだが……」
高橋さんの言動に、驚くばかりで息を呑んだら喉が鳴ってしまった。
1回だけプライベートで遊んだって……それって?
いろいろなことが想像出来てしまい、頭の中を駆け巡っている。
「乗った時から、気づいてはいた。何だかコースターに書いてきたりしていたが無視していたら、しつこく色々言ってきたんだ」
何か引っ掛かっていた。あの不自然なコースターの置き方は、やっぱりそういうことだったんだ。でも、高橋さんがあのCAと顔見知りだったことを乗った時から気づいてたなんて、まったく分からなかった。
あのCAと、1回だけプライベートで遊んだということは、いったい……。
詳しく聞きたかったけれど、とてもじゃないが怖くて聞けない。それどころか、高橋さんの顔をまともに見られない。だって、高橋さんの話の内容からしたらCAに逆ナンパされたってことで、それで1回だけ遊んだって……普通、部下の私にそんなことを言う? それとも、何の感情もない部下だから言うの?
でも、何だか私が恥ずかしくて、ますます俯いてしまった。
「だから席にCAが来た時、悪いけど俺はその気ないからと言ったんだが?」
「えっ?」
思わず、大きな声を出してしまった。
「それでもしつこくつきまとってきて、トイレまで付いてきて……避けたんだが避けきれなかった」
「嘘……」
「今更、嘘を言って何になる」
そ、そんな……。
それじゃあ、あれは私に言ったんじゃなかったの?
私が新婚旅行に行きたいとか、あれこれ妄想していたことは、声に出していなかったの?
「understand?」
高橋さんは、私の顔を覗き込んだ。
何が何だかまだよく理解出来ていなかったが、近過ぎる高橋さんの顔に緊張しながらただ黙って頷くことしか出来ず、それと同時に本当に声に出して言っていなかったかどうかが気になっていた。
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