新そよ風に乗って 〜慈愛〜

「初めまして、矢島です」
「太田です。よろしく」
太田さんと握手を交わしていると、後ろが騒がしくなって高橋さんの名前を呼ぶ声が聞こえた。
「TAKAだ、TAKAだ。TAKAHIROさんだ」
何気に、英語と日本語が入り交じっている。きっと、高橋さんか誰かかが教えたのかな。
「TAKA!」
な、何？
叫ぶように、高橋さんを呼ぶ声がした。
エッ……嘘。
見ると、何人もの女性が高橋さんを取り囲んで、代わる代わる高橋さんに思いっきり抱きついている。所謂、欧米式のhugというものだろう。お互い抱きしめ合って、抱擁していた。
嫌だ、高橋さん。そんなことしないで。
あっ。もしかして……昨日、ベランダで私にしてくれたことも、あれはこの人達と同じような感覚だったのかもしれない。見ていると、高橋さんは普通にあの人達と接している。
何だ、馬鹿みたい。また早合点して、勘違いしてしまっていた。
きっと、そう……。あれは、高橋さんにしてみれば挨拶のhugと同じようなものなんだ。
馬鹿だな、勘違いして……。
「驚いた？」
エッ……。
「習慣が違うから、仕方がないんだよ」
「そうですね……」
頭の中では分かっていても、それでもやっぱり目の当たりにすると気分の良いものではなかった。
うわっ。
「ちょっと、来て」
「あ、あの、太田さん？」
いきなり腕を掴まれて事務所から出ると、太田さんはエレベーターのボタンを押した。
「ちょっ……あの、太田さん。何処に行くんですか？」
「まだ少し時間があるから、コーヒーでも飲みに行こう」
はい？
太田さんに連れられて、ビルの向かい側にある日本でも展開しているチェーン店のコーヒー店に入った。
やはり本家のコーヒーチェーン店だけあって、値段も日本とはかなり違う。それに、飲み物の量も日本にないサイズまであるし、出されたカップの中身もダイナミックな量に驚きながら満足して再び事務所に戻ると、高橋さんがこちらに向かってきた。
「何処に行ってた？」