新そよ風に乗って 〜慈愛〜
高橋さんが、料理をお皿に載せているところに楽しそうに女子社員も料理を一緒に載せている光景を見ていたら、何となく今置かれた自分の立場がよく分からなくなっていた。私、此処で何をしているんだろう?
「マリッジ・ブルー改め、出張ブルーってところかしら?」
出張ブルー?
「宴の席で、そんな情けない顔してないで。さあ、席に戻って食べるわよ」
「えっ? あ、あの、私……」
高橋さんに、此処で待ってろと言われたから待ってないと……。
「いいから早く。余興が始まったら、落ち着いて食べられないでしょう?」
「でも……うわっ」
凄い勢いで折原さんに腕を掴まれると、そのまま会計の席へと半強制的に連れて行かれた。
「さあ、食べるぞ-。お腹空いた」
折原さんは、テーブルのセンターに置いてあったカトラリーを掴むと、ナイフとフォークを渡してくれた。
「すみません。ありがとうございます」
「見て。この盛りつけのセンス、大雑把ながら上手いでしょ? 和洋中、バランスよく取ったつもり」
「は、はあ。そうですね」
てんこ盛りになっている料理をまじまじと見ると、確かに和洋中とバラエティにとんでいる。
けれど、どうしても壁の方が気になって、振り返ってしまう。
「なーに、落ち着かないの?」
「えっ? あっ、いえ……その……」
「うん。このエビチリ、バイキングにしては、美味しいわ。ハ、ハーン……さては、高橋が気になるのね。気になるどころか、恋の悩み多き乙女って顔してるけど」
「お、折原さん。そんなんじゃ、ありません」 
「じゃあ、どんなん?」
「それは……その……高橋さんに、さっきの壁のところで待ってるように言われたので。それで……」
「それなら大丈夫よ。矢島ちゃんが何処に居たって、高橋は見つけられる」
エッ……。
折原さんを見ると、ビールを豪快に飲みながらこちらを見て笑っている。
「視力は、いいはずだから」
視力は、いいはずって。折原さん……。
< 8 / 181 >

この作品をシェア

pagetop