新そよ風に乗って 〜慈愛〜
「何? 今のところは、笑うとこなんだけどなあ。どうした? 矢島ちゃん。何だか深刻そうな顔してるけど、何かあった?」
ビールを飲みながら料理を摘んでいる折原さんを見ていると、私にもこんな風に落ち着いて構えていられたらいいのにと、不可能に近い無い物ねだりの思いが浮かんだ。
「出張、何時からだっけ?」
「明後日からです」
そうなんだ。もう、明後日に迫っているのに……高橋さんと一緒に出張に行く自信がなくなってしまった。
「もう直ぐじゃない。パッキングは、終わった?」
「はい。何とか……」
「嬉しくなさそうね」
「えっ?」
声のトーンが少し低くなった折原さんを見ると、顔を近づけられた。
「何か、悩んでる? 言ったら、少しはスッキリするかもよ?」
折原さん……。
「このまま出発しても、あまり良い成果は生まれなさそうだしね」
あまり良い成果は生まれなさそう?
高橋さんに、迷惑だけは掛けられない。それだけは、絶対避けたい。
「自信がない……んです」
独り言のように、呟いていた。
「自信がない? 何に対して?」
「高橋さんと一緒に、出張に行く自信が……」
「それは、何故?」
一口、ビールを飲んだ後、折原さんはさきほどとは違い、真顔でこちらを見た。
「何ていうか……。私がアシスタントとして出張に帯同すると、高橋さんの足手まといになるんじゃないかと思って。もっと、折原さんのようにテキパキと仕事をこなせる人の方が適任なんじゃないかって思って……。そう思ったら、何だか自信がなくなっちゃって」
素直な気持ちだった。
「何で、自分を卑下しているんだか。そんなこと、誰が決めたの?」
エッ……。
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