天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う
初対面の印象は最悪でも、少しずつ距離が近付き、今では心から彼が好きだ。
医師として尊敬できる点はもちろん、清掃員の仕事をなくてはならないものだと言ってくれた頼もしさも、職場で理不尽な言いがかりから庇ってくれた優しさも、頑なにかぼちゃを食べない可愛らしいところも、全部に惹かれている。
強引で、壊滅的に考え方が合わないと思っていたけれど、羽海にはない考え方をする彗といるのは不思議と苦じゃなく、くだらない言い合いすら楽しいと感じていた。
それに、お腹にいるのは間違いなく彗の子だ。それを偽るなんて絶対にしたくないし、エコーで見た命の煌めきを軽んじるような発言をする人間に屈したくはない。
(初対面の隼人さんの言葉を真に受けて悩むなんてバカげてる。ちゃんと彗さんに聞いて、否定してもらえばいい)
隼人は多恵が選んだ相手と結婚すれば財団の理事になれると思っているようだが、彼自身も言っていたように、多恵が羽海に紹介したのは彗のみ。
多恵が〝女性を落としたほうが次の理事〟なんてゲーム感覚で後継者を決めるとは思えないし、隼人が自分に都合よく捉えているのだろう。
(私と結婚したら理事に就任できるっていう方程式なんて成り立たない。私はただの一般人で、財団の利益になるものなんてなにもないんだから)
そもそも彗が財団を継ぎたいと思っているのかも、多恵の意向もわからない。