天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う
(だから〝二度目〟がなかったのかな。慣れていない私なら、一度抱けば執着されない程度に情が湧くって思ったのかも)
恋心をきちんと自覚する前に身体を繋げてしまったが、それに関して後悔はない。
彗は決して乱暴でも自分本位でもなく、むしろ意外なほどに優しく気遣って抱いてくれた。
けれど、それを利用されたのだと思うとやるせない。
(それも、あの人の手の中で転がされていたってことなのかな)
なにも考えたくないと思うのに、次から次へと彗と交わした会話ややり取りが思い出される。
出会ってたった一ヶ月半。時間にするととても短いけれど、濃厚な一ヶ月半だった。
まぶたを閉じても目尻から雫が伝い、枕が悲しみに濡れていく。
なにに涙しているのか、自分でもわからない。
彗が実は自分を愛してはいなかったと聞かされた絶望、これからどうしたらいいのかわからない不安、彗を信じきれない自分自身に対しての失望。
すべてがぐるぐる胸の中で渦巻いて、涙として体外に放出されていく。
結局一睡もできないまま朝を迎えた。
泣き腫らし、とてもメイクでどうにかなる顔ではない。
今日が休みでよかったと安堵し、明日からどうすべきかと鏡の中の自分が大きくため息をついた。