天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う

朝方医局に戻るなり、不機嫌さを隠さず大きな音を立てて椅子に座る。

周囲の医師は遠巻きにしているが、気にする余裕もなかった。

兄の隼人が羽海に接触したらしいと聞かされ、居ても立ってもいられないのに、傷ついた顔をした彼女を置いてこうして職場にいる自分がもどかしい。

それでも自分を必要としている患者を放って帰ることはできないし、きっと羽海もそんなことは望んでいないだろう。

デスクに両手を組んで置き、その上に額を乗せて大きく息を吐き出した。

羽海に恋愛感情を抱いた瞬間を、彗ははっきり認識している。

〝玉の輿を狙って祖母に取り入った女〟だと思っていたが、実際の彼女は真逆で欲がなく、家事の対価として渡したブランドバッグを受け取らず、料理を食べてくれるだけで十分だと本気で言う女性だった。

彗に物怖じせずに言い返してくる気の強さも好印象だし、媚びずに対等に話せるのが心地いい。

患者申出療養制度を使って転院してきた患者の手術の日。帰宅後、彗が執刀した手術の結果を羽海に聞かれた。

未承認器具を使用するとあって技術的な部分以上に緊張感のある手術だったのと、羽海が仕事の話を聞いてきたのが珍しく、よく覚えている。

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