天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う
(そんな人に出会ったことはないけど。ううん、出会ったことがないからこそ、これから頑張って見つけたいんだもん)
愛情を持たない相手によくわからない条件を突きつけられ、『結婚してもいい』と恩着せがましく言われて「よろしくお願いします」と言うわけがない。
イケメンで金持ちの医者であれば誰でもいいという女性もいるかもしれないが、羽海は違う。
いつか祖父母のように幸せな結婚をしたい。
湯気の立つ香ばしい香りのコーヒーをちらりと見て、口をつけない罪悪感を感じながらも、彗に視線を戻して毅然とした態度で言った。
「結構です。お断りします」
「……は?」
まさか断られると思ってもみなかったという彗の表情に、逆に羽海が困惑する。
(どうしてそんな条件を出して受け入れてもらえると思ったんだろう?)
むしろ、こちらから断ってほしくて最低な態度で接しているのではないかとさえ思えるほどなのに。
「私は、あなたと結婚する気はありません。謹んでお断りいたします」
再度、こちらの意思がきちんと伝わるよう大げさなほど一音一音を粒だてて発音し、ゆっくりと頭を下げた。