天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う
「羽海。お前の荷物、全部うちに届いた。七時にあがるから中庭で待ってろ」
親しげに名前で呼ばれ、羽海は制服であるピンク色のキャップが吹っ飛ぶほどの勢いで振り返る。
ここは脳神経外科と心臓血管外科の患者が入院する十二階フロアで、時刻は午後二時。
ちょうど看護師が患者のケアに忙しく動いている時間帯で、病室が連なる廊下にいたふたり一組でワゴンを押しているスクラブ姿の女性たちが、羽海と同様とても驚いた顔をしてこちらを凝視している。
(今、私の名前を呼んだ? ううん、それより荷物がなんだって?)
これ以上ないほど目を見開いて驚いている羽海の顔を見て、彗が怪訝な表情になった。
「おい、なんだよ、変な顔して。聞いてたか?」
「いや、あの……」
「今日からうちに来るんだろ。まだ渡せる鍵がないから一緒に帰るしかない。じゃあ七時に中庭で」
追い打ちをかけるような彗の言葉を耳にして、膝から崩れ落ちそうな錯覚に陥った羽海をよそに、彼は用件だけ告げると白衣を靡かせながらその場から去っていった。
フロアにいた看護師や入院患者など、ふたりの会話を聞いていた多くの女性の絶叫が響き渡ったのは言うまでもない。