天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う
はぐらかされているのか天然なのか、羽海は真剣に困っているのに、いつの間にか貴美子の惚気を聞かされている。
大恋愛の末に結ばれた祖父母は、本当に仲がよかったのだろう。子供の頃から聞かされて耳にタコだが、それでもふたりの恋物語に憧れていた。
けれど、今聞きたいのはその話ではない。
「おばあちゃん、あのね」
『あら、夕方の回診にいらしたわ。じゃあ羽海ちゃん、またね』
無情にもピコリンと可愛らしい音と共に通話が切られ、羽海はがっくりと肩を落としてため息をつく。
これ以上祖母になにを言ったところで、バリアフリーの工事はこの先必要なので中止するわけにもいかず、当面実家で暮らせない事実に変わりはない。
ホテルに泊まるにはお金がかかるし、友人に泊めてもらうにしても、どのくらいの期間かわからない限り頼みにくい。
(もう、どうしたらいいの……)
途方に暮れたまましばらく部屋で佇んでいたが、このままここにいても仕方がない。
羽海は意を決して実家を出て、先程歩いてきた道を戻る。