天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う
「な、なんですか?」
「いや……本当に変な奴だと思っただけだ」
彗の声が上ずって聞こえる。
しかし再び彼を見上げた時には、羽海に向けられた瞳に先程までの熱はなく、呆れたように苦笑している。
頬が焼けるほどの温度を感じたのは気の所為だったらしい。羽海はホッと胸を撫で下ろした。
「もう。あんまり人を変人扱いすると、明日の夕食はかぼちゃ尽くしにしますから」
一昨日、食器を下げたシンクの横に、かぼちゃの煮物だけが手つかずで残っていた。きっと嫌いなのだろう。
同居してすぐの頃、アレルギーや苦手なものを聞いた時には、特にないが和食が好きだと答えていたはずなのに。
(かぼちゃが苦手って言うの、恥ずかしかったのかな)
普段はなにを考えているのか読めない彗だが、あまりのわかりやすさに翌日の朝は笑いを堪えるのが大変だった。
大病院の後継者である彗に気安い態度で接してしまったが、そこについて不満はないらしい。
「かぼちゃはこれから先、死ぬまで食わないと決めている」
不貞腐れた子供のような顔で話す彗を見て、羽海はこの部屋に来て初めて声を上げて笑った。