天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う

「失礼しました」

小さく会釈をして病室を出ると、成瀬羽海は首をひねった。

(え、どういうこと? どうしておばあちゃんがいないの?)

ここ御剣総合病院の十一階、整形外科の入院病棟には、羽海の祖母である成瀬貴美子が昨日から入院している。

実家の階段から足を踏み外し、大腿骨を骨折してしまったためだ。

物を考える時の癖で手を当てた羽海の唇はぽってりと厚みがあり、派手なリップの色を使うと余計に目立つので、選ぶのはいつも薄いピンクベージュ。

目元と鼻には特徴もなく、祖母は「目も唇もまんまるで可愛い」と言ってくれるが、自分では地味な顔立ちだと思っている。

会釈した拍子に顔にかかった栗色の長い髪を耳にかけ、羽海は考えても仕方ないと、廊下を歩いてスタッフステーションを目指した。

御剣総合病院は明治時代からこの地の医療の拠点を担い、数多くの診療科を抱え、最先端の高度医療を受けられる中核病院だ。

貴美子は手術が必要なため、近所の整形外科から紹介されてこの病院に搬送され、明後日には骨接合術という、骨を金属などの器具で固定し、折れた部分をくっつける手術が予定されている。

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