天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う

昼休憩前のやりとりを思い出していると、自然と口角が上がる。

そんな彗の表情を見た多恵は満足そうに微笑んだ。

「仕事熱心なのもいいけれど、家に帰ってホッとできる時間があると違うでしょう?」
「まぁ……そうだな」

なんとなく気恥ずかしく言葉を濁す。

これまで仕事一筋で、家には着替えと睡眠のためだけに帰っているようなものだった。

病院に泊まり込むことも珍しくなかったが、今は羽海の用意する夕食が食べたくて、もっと言えば羽海の顔が見たくて、急変の心配がない限り他のドクターと同じように当直医に引き継いで八時過ぎには帰宅している。

彼女は食についてアレルギーや苦手なものを確認し、和食が好きだと伝えた彗の好みに合わせた料理を出してくれる。

あれだけ彗に言い返す気の強い羽海だが、些細なことにも気を配り、なにを望んでいるのかを確認する作業を怠らない。

食事を共にすることはないが、彗が食べている間は自室に戻らない羽海を見て、なかなか懐かない猫が気を許してくれたような喜びを感じていた。

自分の好みに合わせた温かい食事はやはり外食や出来合いのものとは違い、思わず『美味い』と呟くと、ソファでテレビを見ている羽海の口角がわずかに上がる。

それを可愛いと思うし、家に帰れば彼女がいてくれるという環境に慣れ、癒やされている自分に気が付いた。

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