天才ドクターは懐妊花嫁を滴る溺愛で抱き囲う

彗は初めて抱く感情を持て余しているというのに、祖母にはそれを見透かされている気がする。

しかし次の多恵のひと言で、彗は一瞬にして現実に引き戻された。

「うまくいくようなら、結婚と理事就任の発表を一緒にしたいわね」

脳裏で思い返していた羽海の笑顔が霧散し、病院や財団の運営といった重責が押し寄せてくる。

羽海との縁談は、世間一般の恋人たちが経験するふわふわと幸せな結婚とはかけ離れていて、三十を過ぎて独身ではまずいという打算的な意味合いが強い。

理事就任と聞き、真っ先に浮かんだ懸念事項を尋ねる。

「……隼人は?」
「隼人にも同じように去年話したのよ、将来を見据えてちゃんとなさいって。あの子の場合、結婚よりも仕事に身を入れる方が優先なのだけれど。職場の評判を聞いても良くならないし、いくら御剣本家の長男でもそんな人間を財団の理事に入れるわけにはいかないわ」

多恵が大きなため息をつきながらこめかみを押さえた。

彼女にとって彗も隼人も同じ大事な孫に違いないが、隼人は医師になれなかったコンプレックスを拗らせ、享楽主義に拍車がかかっている。

ふたりは一卵性の双子だが、漫画のように兄がなにを考えているのかわかるなんてスピリチュアルな経験はなく、母親が出ていって以降、兄弟の距離は遠ざかるばかりだ。

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