狼の目に涙
「じゃあホームルーム終わり。気をつけて帰れよ」

私はこの瞬間がたまらなく好きだ。
六時間目まで受けた授業のあとに待っている至福の時間。例えるなら、旅行の前日に味わうワクワク感に近い。

先生のこの声を合図に椅子を引きずる音が一斉に教室に鳴り響き、〝さようなら〟で生徒は一気に散らばる。
部活に走る人もいれば、夕陽が差し込んでくるまで教室に居座る人もいる。私はそのどちらでもなく、部活に走る人が居なくなってから静かに教室を出る。

帰宅部は中学から四年続けて、五年目に入った。
ホームルームが終われば誰とも会話することなく、無事に家に帰る。これが帰宅部の極み。
高校を卒業できれば青春なんて興味なかった。
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