私のボディーガード君
ちらっと浅羽の方を見ると、丁度白いマグカップを二つ持って、こっちに来る所だった。

「妃奈子さん、ここに座って」

浅羽に促されて、暖炉近くのエル字型の白いソファに腰かけた。

浅羽は私との間に1メートルの距離を空けて、角を挟んだ私の右側に腰を下ろした。私の男性アレルギーを配慮して、距離を取ってくれたのかもしれない。この距離ならいきなり襲われる事はない。別の意味でほっとした。

「どうぞ」

私の前に湯気が立つ白いマグカップを置いてくれた。
辺りがコーヒーの香りに包まれる。

「あ、妃奈子さん、お砂糖とミルクは?」
「ブラックで大丈夫」
「僕はミルクを入れるよ」

浅羽が私の目の前でコーヒーミルクを入れて、ティースプーンでぐるぐるとコーヒーを掻き混ぜた。

「ブラックだと胃にあまりよくなくてね。そう言えば妃奈子さん、胃は大丈夫? 伊藤先生の所には行ってる?」

チャイルドとは関係のない話題をふられて焦る。
私の声が聞えなかった? それともわざとスルーしているの?

「最近はストレスを感じる事が減ったから、伊藤先生の所にもあまり行かなくなったわ」
「妃奈子さん、それって僕とつき合っていた時はストレスがいっぱいだったって嫌味?」

低い声でクスクスと笑う浅羽は、犯罪を犯しているようには見えない。

「そう言う意味じゃ」
「冗談だよ。妃奈子さんがここにいる事が嬉しくて」

向けられた笑顔を見て、自信がなくなってくる。
倉田浩介と浅羽は似ていると思ったけど、浅羽は今回の件と関係ないんだろうか。
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