私のボディーガード君
「結局は弱い者は強い者に従うしかないのさ。父はそれをわかっていなかった。だから父は邪魔者扱いをされて会社をクビになった。神宮寺製薬はチャイルドの副作用は深刻な物ではないと判断したんだよ」

悔しそうに浅羽が唇を噛みしめる。

「さらに許せないのは佐伯洋子だ。父の陳情を聞いて、一旦は父の味方になったくせに、父を裏切って神宮寺製薬に寝返った。あの女は父に大人しくしているように忠告までしたんだ。父の手帳を読んで佐伯洋子が許せないと僕も思ったよ」

「手帳は神宮寺製薬に渡したんじゃないの?」

「母はコピーを取っていたんだよ。何かあったら使うつもりだったのか、さらに金を無心する為だったかはわからないが、父の事を問い詰めたら、全部打ち明けたよ」

「私の母が裏切ったから倉田浩介は私を誘拐したの?」

「佐伯洋子に恨みもあったが、一番は自分の声を聞いて欲しくて強硬手段に出たんだ。千葉の大学病院からこの別荘に妃奈子さんを連れて来たらしいが、覚えている?」

やっぱりこの別荘に連れて来られたんだ。

「なんとなくだけど、見覚えがあるわ」
「そうか。12歳の、ほんの子供だった妃奈子さんに怖いを思いをさせたと思うと胸が痛くなるよ」

私に同情するように自分の胸に手を当てた浅羽にイラッとする。

「私を殺すって母を脅しているくせに白々しい。父親が私を狙ったから、今回も私を狙ったわけ?」

「そんな単純な理由じゃないよ。妃奈子さん、チャイルドの被害者は誰だと思う?」

「それは……チャイルドを投薬された小児ガンになった子ども」

口にして、ゾッとした。

ガンで苦しい思いをしているのに、薬の副作用でさらに痛めつけられたとしたら、痛まし過ぎる。

「そうだ。子どもが犠牲になった。だから佐伯洋子にも、神宮寺製薬の社長にも同じ報いを受けさせようと思った」

神宮寺製薬の社長にもって事は……

「まさか綾子さんも! 彼女の命も狙っているって事?」
「その通り」

浅羽がニヤッと笑みを浮かべ、パンパンと手を叩くと、リビングの奥の戸が開いた。
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