私のボディーガード君
戸を開けたのは以前、私を襲った髭面の男。そして、男の傍に椅子に座った状態で、銀色のテープでぐるぐる巻きにくくりつけられた綾子さんの姿があった。

「綾子さん!」
「うー、うー」

綾子さんが私を見て泣きそうな顔で唸った。
口は白い布で覆われていて、猿ぐつわをされているよう。

「何て事を! すぐに綾子さんを解放しなさい!」

頭を抱えて、浅羽が笑い出した。

「妃奈子さん、本気で言ってる? 自分の身も危ないとは思わない?」

立ち上がって浅羽との距離を取る為に、部屋の隅に行き、バッグの中に手を突っ込んだ。中の催涙スプレーを掴む。浅羽が襲ってくるなら使うしかない。

「バッグに武器でも入ってるの?」
「そうよ。私に何かしたら痛い目にあうわよ」

浅羽が右手を上げてパチンと指を鳴らす。

二階の部屋から若い男が出てくる。男はライフル銃を構え、吹き抜けからリビングの私に銃口を向けた。

まさか、銃まで用意していたなんて。
催涙スプレーなんかじゃ太刀打ちできない。

どうしよう。絶対絶命のピンチ。

「妃奈子さん、大人しく人質になった方がいいよ」
「私を人質にするつもり?」
「佐伯洋子と最後の交渉を始めるからね。綾子さんの身だけじゃ、あの女は言う事を聞かないだろ」
「母に一体何を要求しているの?」
「22年前、倉田浩介の事件を隠蔽し、死に追いやった事を認め、そして、神宮寺製薬が未だに隠したがっているチャイルドの深刻な副作用を公表して国会議員を辞職する事だ」

議員辞職の事しか母から聞いていない。

倉田浩介の事とチャイルドの事を伏せたのは隠蔽した事を私に知られたくなかったから?

浅羽の言う通り母が倉田浩介を死に追いやったの?
そうだとしたら、悲し過ぎる。
< 190 / 210 >

この作品をシェア

pagetop