私のボディーガード君
ソファから立ち上がった浅羽が私に近づく。

「僕は乱暴な事はあまり好きではないんだ。妃奈子さん、僕の言う事を聞いてくれるかな?」

「綾子さんみたいに縛られろって言うの? よく婚約者に酷い事ができるわね。綾子さんと結婚するんじゃないの?」

「結婚? まさか。あのお嬢様と本気でつき合っている訳ないだろ。一度寝ただけで、すっかり婚約者面をされて参っているんだ。彼女は妃奈子さんより惚れっぽくてね」

酷い。女を何だと思っているの?
浅羽に胸がムカっとする。

「私につき合って欲しいと土下座までしたのは、私を操って母を脅す為だったの?」

「否定はしない。しかし、それだけではないよ。妃奈子さんの事はちゃんと好きだったよ。妃奈子さんには随分と焦らされたからね。バーで吐かれなければ、あの夜、無理矢理にでも妃奈子さんを抱くつもりだった。抱いてしまえばこっちの物だと思ったが諦めたよ。まさか男性アレルギーだったとはね。それで妃奈子さんを拉致しようとしたが、それも上手くいかなかった。あの忌々しいボディーガードのせいだよ。あいつさえいなければ、もっと早く妃奈子さんを手に入れられたのに」

男性アレルギーだった事と、三田村君の存在が私を守ってくれていたんだ。
三田村君のありがたさが身に染みる。

「だから、今日は絶対に妃奈子さんを帰さないよ。こんなチャンスないからね。妃奈子さん、無駄な抵抗はやめて、こっちにおいで」

浅羽がさらに近づく。

「来ないで!」

叫ぶと同時にパンっという銃声が響き、銃弾がすぐ近くの壁に当たった。

ひっ……。

恐怖で身がすくむ。

手足が震える。

怖い。殺される。

「妃奈子さん、死にたくないだろ? 命までは奪うつもりはないから、おいで」

浅羽が手を伸ばす。
捕まる。そう思った瞬間、部屋の電気が消えた。
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