私のボディーガード君
ゴールデンウィーク初日。

ホテルのラウンジでお見合い相手を待った。
母からお見合い相手の名前を聞いて、会うと即答した。

気合いを入れて、桜色のワンピを着て、髪型もメイクも美容院で仕上げてもらった。今日の私は完璧。男の人の視線を沢山感じるし、きっとそれなりに綺麗なはず。

ホテルに部屋も取った。絶対に連れ込んでみせる。

34歳の本気を見せてやる。

可愛い女を演じて、私に夢中にさせてみせるんだから。

それであんな去り方をした事を叱って……。

「佐伯妃奈子さん」

背中に聞き覚えのある低い声がかかった。

振り向くと、グレーのスリーピーススーツをビシッと着た三田村君が立っている。

「お待たせしました。三田村勇人です。今日はよろしくお願い……」

立ち上がってスーツ越しの逞しい胸板に抱きついた。
ムスクの匂いがする。大好きな三田村君の匂いだ。

叱ってやろうと思ったのに、勝手に涙が出てくる。

「妃奈子さん?」
頭の上で戸惑ったような声がする。
「バカ。来るのが遅い」
「すみません。いろいろと調整していたもので」
「調整?」

顔を上げると、端正な顔が柔らかな笑みを浮かべた。

「今日のお見合いの返事を今してもいいですか?」
「もうするの?」
「心を決めてきましたから。妃奈子さん、俺と結婚を前提につき合って下さい」

男らしく言い切った三田村君に胸が高鳴った。

嬉し過ぎる。

「はい。不束者ですが、末永くお願いします」

私の返事を聞いて、端整な顔がくしゃっと嬉しそうに笑った。

「では、参りましょう」

三田村君が私の手を掴んで歩き出す。

「あの、どこに?」
「妃奈子さんと2人きりで過ごしたくて部屋を取りました」

かあーと頬が熱くなる。

私も取ったけど、まさか三田村君も……。
< 200 / 210 >

この作品をシェア

pagetop